商標登録はランニングコストがかかってくる手続きですから、今やるべきかどうなのか迷うことも多いと思います。
現に商標取得をする際に多くの方が、自分が商標登録する意味(メリット)はあるのだろうか?逆に“商標取得しないことによるメリット”もあるのだろうか?と悩まれます。
本稿では、個人事業者・中小ベンチャー企業の方に、
- 商標登録を取らないリスク
- 商標登録を取るメリット、デメリット
をわかりやすく説明し、商標登録を取るか否かの判断材料を提供しようと思います。
もし自分一人で商標登録のメリット・デメリット・リスクを判断していくのは難しく、商標登録を取るべきか迷っていたら参考にしていただき判断の手助けにしてくださいね。
商標登録をする意味は「何も変わりらない」状態を維持すること
まずはじめに、お伝えしたいのが商標登録で商標権を取得しても、実はビジネス上、何もいいことは起きないということです。
逆に、「何も起きない」ことが、商標登録することの最大の意味です。
どういうことなのか?
そもそも商標登録というものは、基本的には商標を保護するものであり、守備的なものです。
ですから商標権を取得することで、業績が伸びたり、知名度が上がったり、ということは基本的にありません。
こういった商標登録の話をすると、
「うちは中小企業だから商標やブランドの話は関係ない。」
「ニッチな業界だから必要ない。」
「うちのマークを真似しようとする悪い同業者はいない。」
とおっしゃられる中小企業経営者方がいらっしゃいますが、だからといって商標登録する必要がないということにはなりません。
商標は、単なるネーミングや記号ではなく、商標はあなたの分身だからです。
ですからビジネスの現場で長年使用されると、商標があなたに代わって、
「この商品は、私が作ったものですよ。」
「この商品は、私が作ったので、品質がいいですよ。」
「この商品は、私が作ったので、新製品ですが品質は保証しますよ。」
「この商品は、私が作ったので、安心して信用してください。」
とアピールしてくれるようになります。
もしあなたの分身である「商標」がある日突然剥奪されたらどうなるでしょうか?
そう、このようなビジネスのリスクをなくすことができる唯一の手段が、商標を保護する手続き=「商標登録」です。
つまり、商標登録は、何も問題が起きないようにするための「保険」と言えます。
商標登録を取らないリスクと事例紹介
商標登録を取らない状態でビジネスを続けていると、大きな問題が起きる可能性があります。
そしてその問題が起きた場合、もう二度と戻れない、取り返しがつかない状態になるのがほとんどです。
商標登録を取らないことで起きる6つのリスク
ここでは、あなた(中小企業)が商標登録を取らないことで起きるリスクを説明し、実際にご相談のあった事例を紹介します。
※なお、事例では、ご本人の特定につながらないように、少しぼかしています。
1.あなたの商標について他社が商標登録を取ってしまう
商標登録は早い者勝ち。
たとえ、何十年もあなたが使っている商標であっても、あなたオリジナルの商標であっても、他社が先に申請すれば、他社が先に商標登録を取ってしまいます。
他社が商標登録を取ると、独占排他権である商標権が発生します。
このため、あなたは、いままで使っていた商標をその時点から使うことができなくなります。
その結果今まで普通に使っていたあなたの会社のマークがある日突然使えなくなりますので、今まで順調だったビジネスが回らなくなることは容易に想像できるはずです。
たった数万円の申請費用を渋ったために、何千万もの売上を失うリスク。
これが商標登録をしないことによる最大のリスクになります。
商標を他社に取られると、さらに以下のような問題が次々と発生します。
2.突然他社から警告状が送付されて法律トラブルに巻き込まれる
商標登録出願(申請)に関するご相談を除くと、このケースのご相談が一番多いです。
警告状は、例えば次のような内容です。
「店名などの商標を使用する行為は、商標権を侵害するので、すぐに中止してください。」
警告状は突然送付されるので、受け取った方はとても驚きます。
そして、警告状の回答期限までに、
- 商標権者は誰か
- 商標登録は現在も有効か(期限が切れていないか)
- 商標登録の内容
- 商標を使用する行為が、本当に商標権の侵害になるのか
を検証する必要があります。
一般の方は、これらのことを検証できないので、通常は、専門家に依頼します。
そして、専門家と打ち合わせをして、対応策を決定して、商標権者に回答します。
次に、商標権者との交渉・折衝があります。
商標権者があなたの回答に納得できた場合、交渉・折衝はすぐに終わります。
しかし、商標権者があなたの回答に納得できない場合は、専門家との再検討が必要になり、交渉・折衝は続きます。
商標登録を取っていない場合、常に、このような法律トラブルに巻き込まれる可能性があります。
3.いままで使っていた商標が一切使えなくなる
他社の商標権を侵害する場合、いままで使っていた商標が一切使えなくなります。
例えば、飲食店における店名の使用が、商標権を侵害する場合、店名を変更する必要があります。
具体的には、看板、食事メニュー、ホームページ、パンフレット、ちらし、食べログなどのポータルサイトの登録情報などにおける店名を変更する必要があります。
これらの変更作業には、多大な労力・費用がかかり、非常に大きな損失になりますよね?
4.他社があなたのコピー商標・紛らわしい商標を使用しても一切苦情や文句を言えない
あなたは、商標権を持っていないので、他社に文句や苦情を言う資格がありません。
とはいえ厳密なことを言えば、商標法以外の法律を使って、他社に文句や苦情を言う方法は存在します。
しかし、実際にはその法律の適用条件は厳しいため、その方法で反論することは現実的ではないのです。
5.大手企業に営業しても、信頼を得られず門前払いされる
大手企業は、取引するための前提条件として、商標権や特許権などの知的財産権を取得してるか必ずチェックします。
知的財産権を取得していない商品を販売すると、権利侵害を起こす可能性があり、信用失墜・損害発生のリスクがあるからです。
6.ネットショップ(ネット販売)の店名を変更した場合はリピーターが流出する
あなたのネットショップの店名について他社が商標登録を取った場合、店名を変更する必要があります。
ネットショップは、インターネット上の仮想店舗であるので、信用が第一です。
しかし、リピーターは、ネットショップの店名が変更されると、「経営者が代わったのか」、「品質は維持されるのか」、「サービスはどうなるのか」と不信感がどんどん増してきます。
この結果、リピーターが他のネットショップへ流出するおそれがあります。
【事例紹介】商標登録を取らないことであなたが損したケース
以前、飲食店の関係者から「商標の使用中止を要求する警告状が届いた」というご相談を受けたことがあります。
警告状を確認したところ、商標権者は大手フードチェーンでした。
登録商標は、大手フードチェーンからは簡単に連想できない独創的なネーミング。
このため、その飲食店はその独創的なネーミングがまさか大手フードチェーンのものとは想像できなかったようです。
飲食店の店名が大手フードチェーンの登録商標と一致したため、商標権の侵害は明らかでした。
このため、その飲食店は警告状の要求を受け入れ、後日すべての媒体にあった店名をすべて変更しました。
商標権者は、専門家と共に侵害行為を十分に調べてから侵害者に警告状を送付します。このため、警告状が届いた場合はすてに手遅れである場合はほとんどです。
この飲食店が商標権侵害の対応に割いた人件費・時間・物品の差し替えにかけたコストを考えると非常に怖いと思いませんか?
もしこの飲食店が出店時に自社の店名で商標取得の申請を出そうと試みていたら、最初から別の店名に変更できたか、大手フードチェーンが商標取得する前に商標権を確保でき上記のようなリスクを回避できたはずです。
商標登録を取るメリット7つと本当の意味で守るもの
商標登録のメリットは、「何も起きない」こと、更に、何も起きないようにする予防策、何か起きてしまったときの対応策を取れることです。
あなたが商標登録を取ると、独占排他権である商標権が発生します。
これにより、あなたは、登録商標を独占的に使用することができ、また、他人による登録商標の使用を排除することができます。
その他に、登録商標に類似する商標(紛らわしい商標)についても、その商標の使用を排除することができます。
この結果、具体的には次のようなメリットが得られます。
1.あなたの商標について他社が商標登録を取る事態を回避できる
商標は早い者勝ち。あなたの商標について、あなたが先に商標登録を取れば、他社が後から商標登録を取ることはありません。つまり、あなたが、登録商標を独占排他的に使用できます。これにより、具体的には、以下のメリットを得られます。
2.法律トラブルを予防して、安心してビジネスに専念できる
あなたが、あなたの登録商標を使用している限り、他社の商標権を侵害しません。このため、あなたが、他社に文句を言われるような法律トラブルに巻き込まれることはありません。
つまり、何も問題は起きないので、安心してビジネスに専念することができます。
3.他社による登録商標の模倣・デッドコピーを防ぐための予防策が可能になる
登録商標を保護するために、登録商標の模倣・デッドコピーを防ぐための予防策を採ることができます。
予防策として、商標登録を取ったことを示す表示(商標登録表示)が可能になります。なお、商標登録を取っていない場合、当然のことですが、商標登録表示はできません。これに違反すると刑事罰の対象になります。
商標登録表示は、例えば次のようなものがあります。
- 登録商標(※商標登録を受けた商標のこと)
- 丸囲みのRの文字(※登録商標を示すマーク)
- 商標登録第123456号
- 商標登録済
- 商標権取得済み
もっと積極的に模倣・デッドコピーを防止したい場合、次のような強め一文を追加することも可能です。なお、警告の度合いは、徐々に強めになっています。
ここではネーミングの例を挙げましたが、ロゴやキャラクターであっても、このような商標登録表示が可能です。
一般の方は、検索エンジンを使って商標を調べることが多いです。このため、ホームページにはぜひとも商標登録表示を入れたいですね。
商標登録表示は、地味ですが、非常に簡単で有効な手段です。しかし、商標登録表示のメリットを具体的に説明する専門家、商標登録表示を実行する会社(又は個人)は、比較的少ないです。これは非常にもったいないですね。
積極的に他社の模倣・デッドコピーを防止したい場合、商標登録を受けて、ぜひとも、商標登録表示を行ってください。
4.登録商標のコピー商標や類似商標を使用する者に対して、使用中止を要求できる
登録商標のコピー商標又は類似商標の無断使用は、商標権の侵害行為に該当します。このため、あなたは、そのような商標を無断で使用をした者に対して、使用中止を要求できます。
なお、法律上は損害賠償請求も可能です。
しかし、大きな損害が発生するケースは少ないので、現実的には、使用中止だけを要求することが多いです。
5.ブランドとしての価値が上がる
登録商標を保護すると、登録商標に、消費者・取引者の信用が生じます。
そして、登録商標に生じる信用がブランドにつながります。
ブランドは、特定の地域、特定の消費者にも機能します。
つまり、中小企業であっても、ブランドを確立することによって、ビジネスを更に発展することできます。
6.大手企業への営業時に信頼してもらえる
商品の商標について商標登録を取っていれば、大手企業は、その商品を販売しても商標権を侵害することはありません。
そのため、営業時には、大手企業の信頼が得られます。
また、中小企業であっても特定の業界でブランドが確立していれば、大手企業は、積極的にその商品を取り扱うこともあります。
7.ライセンス収入が得られる
ビジネスが発展して、フランチャイズ経営が可能になれば、ライセンス収入を得ることができます。
また、既にブランドが確立していれば、ライセンス収入を高額にすることも可能です。
商標登録によって本当に保護すべきもの
あなたの登録商標をしっかり保護して、ビジネスがどんどん発展していくと、登録商標に、消費者・取引者の信用が生じます。そして、登録商標が、あなたに代わって、商品をどんどんアピールしてくれます。
「この商品は、私が作ったものですよ。」
「この商品は、私が作ったので、品質がいいですよ。」
「この商品は、私が作ったので、新製品ですが品質は保証しますよ。」
「この商品は、私が作ったので、安心して信用してください。」
このように、登録商標に生じる信用こそがブランドであり、商標登録によって本当に保護すべきものです。
このようなブランドは、全国的に、すべての消費者を対象にする必要はなく、特定の地域、特定の消費者を対象にしても、十分に機能します。
このため、中小企業であっても、ブランドを確立することが可能であり、それにより、更なるビジネスの発展が可能です。
商標登録を取ることのデメリット3つ
商標登録を取ると、メリットだけではなく、当然、デメリットもあります。
デメリットの大きさは、ビジネスのステージによって異なりますので、しっかり把握しておく必要があります。
1.商標登録の取得・維持のために費用がかかる
商標登録を取るためには、一般に、弁理士に手続を依頼します。
出願から登録までの手続にかかる総費用は、弁理士によっても異なりますが、1区分(商品又はサービスの1つのグループ)・5年で10万円前後します。1年当たりに換算すると、2万円前後です。
また、商標登録は5年又は10年毎に更新できます。更新手続にかかる費用は、弁理士によっても異なりますが、1区分・5年で3~6万円程度です。1年当たりに換算すると、2万円以下です。
2.商標権者の名称(又は氏名)及び住所が公開される
商標登録を取ると、商標公報が発行されます。商標公報には、商標権者の名称(個人であれば氏名)及び住所が記載されます。これらの公開を望まない場合は、商標登録を取らない方がよいです。
3.登録商標が公開される
商標公報には、商標権者の情報だけでなく、登録商標も記載されます。
このため、例えば、新ブランドを立ち上げたものの、新ブランドを一定期間秘密にしたい場合は、新ブランドの発表直前まで、商標登録を取らない方がよいです。
“商標登録を取らない方がメリットがあるケース”はありません
商標取得のメリット・デメリットを理解したところで、もしかしたら商標登録しないほうがメリットがあるケースもあるのではないか?と思いますよね。
確かに、運営コストを下げる・ブランドの発表を非公開にしておきたいなどの目的がある場合は“今はまだ”商標登録しないほうがいい、というケースは存在します。
ですが、ずっと永久的に商標取得をしないほうがメリットがあるケース、というのは存在しません。
商標登録を取らない=何もしない=現状維持です。
今ビジネスが好調に向かっているのであれば、商標登録を取ることより“現状維持”できること以上に得られる大きなビジネスメリットはないのではないでしょうか?
むしろ、あなたが今ビジネスを現状維持したいのであれば、先程申し上げたように商標登録を取らないリスクが非常に大きい、ということを覚えておいてくださいね。
まとめ
あなたがすでに商標について調べているのであれば、どこを調べても「商標登録したほうがよい」といっていて、胡散臭く感じてしまうこともあると思います。
ですがこの記事を読んでいただければ、商標登録を取らないメリットが存在しないこともおわかりいただけたのではないかな、と思います。
商標登録を取るデメリットは、ほとんどのケースで、費用に関するものです。
しかし、商標登録に関する費用は、1年に換算するとそれ程大きい金額にはなりませんよね?
つまり、商標登録を取る場合、デメリットに比べて、メリットの方がはるかに大きいと言えます。
商標登録を取らないことで、一度でも問題が発生してしまうと非常に大きな損害になってしまい、取り返しがつかないことになるケースがほとんどです。
ですから商標登録を取らないリスクを把握した上で、資金繰りが厳しい状況でなければ、ビジネス上のリスク回避のためにも、商標登録を取るようにしてみてくださいね。
なお、商標取得のタイミング・どの商標から登録すべきか(費用と優先度のバランス)は実際のビジネス運営上の問題としてあります。
もしそういった点で迷った場合は、一度弊社(山本)までご相談ください。
横浜・川崎であれば、無料の出張相談も承っておりますので。